「漁夫とその妻の話」(支配星:海王星)

現実から目を背(そむ)たくなることってありますよね。
もしも…こんな風になれたら。
もしかしたら、こんな風になれるんじゃないかって。
(少し間)
夢のようなストーリーに、自ら引き込もうとする自分がいる。
潮風(しおかぜ)を纏うように…。
現実には辛いことがあっても、この瞬間だけは、想像し得る限りの幸せを感じられたら。

これは、「許され救われたい…」と願い「自らに捧げた愛」のお話です。

その家は、「湿りと腐りの浸食で出来た狂おしいほどの棲み家」と化していました。

そこに住んでいたのは、漁師の夫とその妻。

環境の崩壊は、肉体をくぐり抜け、精神をも苦しめ、握り潰そうとしていたのでした。

漁師の夫が、いつものように岩場に腰を下ろし、釣り糸を垂れていると、海が何かを運ぶかのように、自分の方へと向かって来ていることに気がつきました。

ピク、ピク、ピクッ
ピタ、ピタッ…  ピタ、ピタッ… ピタッ

なんと、漁師の夫の足元に現れたのは、ヒラメです。

それが、ヒラメとの出会いでした。
ヒラメは、すぐさま言いました。
ヒラメ
(20代青年)
王子:知的・爽やか・天秤座よりの水瓶座
「見逃してくれないか…
(上目使いで二呼吸ほどおいて)
(立派な感じ)私は遠い国の王子。訳あってこのような姿になってしまった。」

漁師の夫は、気の毒に思って、釣り針を丁寧に外してやると、優しく微笑み、ヒラメを逃がしてやりました。
(少しの間)
家に帰って、
漁師の夫は、この話を妻に話して聞かせると、妻は言いました。

魚座 上品に
美しい人
「ねぇえ、助けてあげたんだから、私たちがお願いをしたら、一つくらい何か叶えてくれるんじゃないかしら。
ねぇ、あなた、お願いしてきてちょうだいな。」

ところが、欲のない漁師の夫は、まったく気が進みませんでした。
しかし結局、強引な妻に押し切られてしまい、ヒラメに会うため海へと向かいました。

ヒラメは、すぐに願いを叶えてくれました。

妻の願いは、「小さくてもいいからまともな家」が欲しいというものでした。
「小さなまともな家」が手に入ると、妻はとても喜び、さらにもう一つお願いをしようと言い出しました。
その願いが叶うと、また次のお願いを、その願いが叶うと、また次のお願いを…

最初は、本当にささやかな願いでしたが、いつのまにか…気がつけば。
(少しの間)
「湿りと腐りの浸食で出来た狂おしいほどの棲み家」と化してしまっていた家が、「まともな家」になった時、海はなぜか黄緑色に変わっていきました。
次の願いが叶い、「小さなまともな家」が「石造りの御殿」になった時、海はなぜか紫と紺色が入り混じった色になりました。
もう一つ次の願いが叶い、「石造りの御殿」が「お城」になった時、海はなぜか、黒ずみ悪臭を放つようになりました。
そして、もう一つ、次の願いが叶い、「お城」が「宮殿」になった時、海はなぜか一面真っ黒になり、逆巻き始めました。

妻の願いは、さらに続きました。「宮殿」が「教会堂」になった時、海は生き物のように動き出し、ボコボコと泡を吹いて煮えたぎり、高波を連れて来たのでした。

そして、ついに妻の願いは、
(一呼吸)
「神」それ自身になりたいと。

とうとう、宇宙の怒りが姿を現しました。
嵐が家も木々もなぎ倒し、山を突き上げ岩を崩し、
大海は、天に届くほどの波を激しく怒り立たせ、
この地球がひねり潰されるような巨大な力によって、
一瞬のうちにすべては支配されてしまったのです。

そして、次の瞬間、
すべては、もとに戻されました。

そこにあったのは、
「湿りと腐りの浸食で出来た狂おしいほどの棲み家」

空虚な笑みを見せる漁師の夫と妻の姿でした。

願いは、引き潮とともに、すべて消えていきました。

私たちも、時折、大事(おおごと)であれ、ささやかであれ、幻想や妄想を抱くことがあります。
そして、一時だけでも現実を離れることで、幸せに戻れる時があります。

何をしても上手くいかない時、
何をしたらいいのかわからない時、
心の中には、こんな風に逃げ込むことを許してくれる、もう一つの世界があります。
そこは、いつでも、あなたを迎える準備を整えてくれています。
そして、
あなたの中のうごめきを鎮め、
現実の世界で生きるあなたを、
愛に溢れる海が抱擁し、
自分自身を心から愛せるように導いてくれることでしょう。

あなたがあなたらしい、優しい夢を描けるように。