「亜麻」(支配星:木星)

あなたが降り立った場所に、運命の女神が存在する。
私たちは、その場所から人生が拡がっていくことを知る。
糸を紡ぎ、糸を編み、糸を結び切るまで、進む道を示し、遠くまで広がっている景色の中へと、私たちを運んでいく。
(長い間)
皆さんは、「亜麻」という植物をご存知ですか?
青い可憐な花をつけ、凛とした立ち姿をしています。
その花たちが一斉に揺らぐと、そよ風も美しく見えます。
亜麻の茎の繊維は、丈夫な布や上質の紙になります。
亜麻は、私たちの生活をよく支えてくれているのです。
(ピアノのタイミング待って入る)

運命の女神が、亜麻にささやきました。

運命の女神
※22~24歳くらいの娘のような感じ
「あなたは、この世に亜麻として生まれました。
そして、あなたには、人生というものが授けられました。
それは、生きることであり、あなたのための素晴らしい日々です。あなたは、いつもそれを信じることができるでしょう。
どんなことがあっても、前向きに進んでいくことができるでしょう。」
亜麻 「はい。運命の女神様。私は亜麻として生きていきます。」
「素晴らしい日々を結んで、私の人生を歩んでいくわ!」
亜麻は幸せを噛みしめていました。
それは、昨日も今日も素晴らしいと感じる日々を過ごしたからです。

亜麻には、みんなが親切です。
お日様は、いっぱいの光を注いでくれています。
雨は、しっとりとした潤いを与えてくれています。
風は、亜麻を揺らし、強くしてくれています。
そして、
畑は、亜麻が育つための十分な栄養を、絶やすことがありません。

亜麻 「なんて、幸せなのかしら…
私は美しく凛とした姿に育った。
みんなが、誰も彼もが、そう言っている。
本当に、幸せ…」
ある日のこと。
大勢の人々がやってきて、美しく凛とした姿に育った亜麻を、一本残らず刈りこんでしまいました。
そして、亜麻は、水の中へ入れられたかと思うと、火であぶられ、粉々に砕かれてしまったのです。
亜麻 「あー、苦しかった。なんてひどいことをするのかしら。私はあんなに美しく凛とした姿だったのに。
でも…待って。みんなだって美しく凛として…と褒めていたわ。
それなのに…なぜ?」
こんなことをぶつぶつと言っている間に、亜麻はどんどん姿を変えていきました。
気がつけば、真っ白い大きな布になっていました。
工場長
※上品めな社長
「こいつは、丈夫で上品だ。いいリンネルの大きな布ができたじゃないか…最高のシーツになるぞ。お偉いさんたちも取り合いさ。」
リンネル工場の所長がそう言うと、皆、顔を見合わせて喜びました。
亜麻 「えっ?そうなの?
私は、前よりもっと美しく凛としたリンネルの布になったっていうことなのね。そして、偉い人たちと一緒に暮らせるようになるのね。なんて素敵なの。」

『素晴らしい日々を、また一つ、私の人生に結んだわ。』

こうして長い月日が過ぎていきました。
リンネルの布は、すっかり張りがなくなり、亜麻は役目を果たせなくなりました。
すると、いきなりです。
亜麻はベッドから剥がされたかと思うと、12枚の布に切り分けられてしまいました。
亜麻 「やめて、酷いじゃない…悲しいわ。辛いわ。
素晴らしい日々を結ぶのが、私の人生じゃないの…?」
でも、嘆く必要はありませんでした。
亜麻には、次の役目が待っていたのです。
亜麻 「あら、下着になったのね!素敵じゃない!
すごくいいわ!
だって、下着はみーんなに必要とされるのよ。
それに、いつも、いつもご主人様と一緒よ。どこに行くときだって。」

『素晴らしい日々を、また一つ、私の人生に結んだわ。』

(間)
亜麻は、また幸せな日々を送っていましたが、やはり、それも永久ではありませんでした。
次第に、ほころび、カタチが崩れ、ご主人様と、とうとうお別れしなければならない時がやって来ました。

今度の別れは、いつも一緒だった「大切な人」とのお別れです。亜麻は心の底から叫びたくなるような苦しさを味わうのでした。

「こんどこそ、おしまいだわ…さよなら…」
(感極まる感じ、だけど笑みを含め言い終わる)
「素晴らしい日々を…また一つ…私の人生に結ぶのよ。」

亜麻は、そう小さくつぶやきました。
(ピアノを待って)
ところが、亜麻には、まだ人生の続きがありました。

亜麻 (信じられないと言った感じで)
「まぁ!素敵…こんな日々が待っていたなんて。」
(間)
『素晴らしい日々を、また一つ、私の人生に結んだわ。』

「なんてしっかりとした紙なの。私はますます美しく凛とした姿になって…そして賢くもなったわ。
人々が私の上に字を書いた。
私には人々に言葉を伝える役目が与えられたんだわ。
私は、印刷所で綴じてもらって「本」になった。
これから、全世界へと送られていくそうよ。」

亜麻は、世界中を駆け巡りました。
どれくらいの人々が亜麻で作られた本を手に取ったことでしょう。
そして、どれくらいの知識を、亜麻は人々に伝えたことでしょう。

亜麻は、たくさん、たくさん働きました。
すがすがしい朝に、にぎやかな学校で、図書館で、カフェテリアで、おやすみなさいの枕元で…
文字がかすれ、ボロボロになるまで、人々に愛読されました。

だから、ある日、亜麻には聞こえたのです。

「ありがとう…
もういいんだよ…少しおやすみ…」とささやく声が。

やがて、亜麻は、庭の片隅にある炉へと運ばれていきました。
そして、迎えてくれた真っ赤に燃え上がる火の粉たちに、亜麻は荒々しく抱きかかえられると、その姿をよじらせながら消えていきました。

亜麻 「この苦しみを越えたら、また、私は、もっと美しく凛とした姿になるんだわ!いつだって、そうだったもの。」
「あっ!お日様の光が…まぶしい。素敵。」
(少しの間)
『素晴らしい日々を、また一つ、私の人生に結んだわ。』
こうして、亜麻は、
真白な煙になって、
お日様に向かって、
たくさんの人々から与えられた優しさと強さを胸に、美しく凛とした姿で、空高く昇っていったのでした。
運命の女神は、命を割り当てるのがその役目。
私たちの人生の糸を紡ぎ、糸を編み、糸を結び切ると言われています。
私たちの命が、この世に誕生し、人生を創り、死を迎えるまでの時間を、運命の女神は見守ってくれているのです。
(間 曲の区切り待って やさしく)
『素晴らしい日々を、また一つ、私の人生に結んだわ。』

みなさんも、亜麻のように、
自分自身の人生を、もっと愛してみませんか?